当院で行う樹状細胞ワクチン療法
樹状細胞ワクチンは、患者さんの体の中に既に存在する、がん細胞を強力に攻撃できるがん抗原特異的T細胞(CTL)を刺激し、増加させ、主に癌の再発予防と治療の目的で行う細胞療法の要となる治療法です。
アフェレーシス(成分採血)で採血した白血球中の単球をIL-4とGM-CSFを用いて樹状細胞に分化させ、これに患者さん自身のがん細胞から抽出した蛋白質や、人工的に合成したがん抗原ペプチドを刺激材料として加えて、作成します。
当院で用いる合成ペプチドは、学会や医学論文でその有用性が証明されたミルテニーバイオテク社のロングペプチドや、オンコセラーピー社のオンコアンチゲンペプチドがありますが、現在は、最も強力なCTLを誘導できるネオアンチゲンペプチドを主に使用しています。
患者さん一人ひとり個別のがん細胞の産出するタンパク質の断片をネオアンチゲンと言い、この異常なタンパク質を産出している遺伝子の変異を患者さんの腫瘍の遺伝子解析により見つけ出し、その結果を基に人工的に合成したタンパク質がネオアンチゲンペプチドです。
このネオアンチゲンペプチドを刺激材料に用いた樹状細胞ワクチンは、患者さん毎に異なる特異的なCTLを体内に誘導できるので、完全に個別化された精密ワクチン療法といえます。
当院では、2017年秋、このネオアンチゲンペプチドを用いた究極の樹状細胞ワクチン療法実施への取り組みをスタートさせ、2022年8月現在、この最新のワクチン療法についての英文医学論文を4本、樹状細胞ワクチンのリンパ節内投与法の総説をCancersという英文医学論文に総説として発表し、我国で最も多くのネオアンチゲンワクチンの症例を報告しています。
樹状細胞ワクチンのCTL(がん細胞を攻撃できる強力なリンパ球)誘導のメカニズム

当院では、免疫反応が早く確実に体内で誘導されるように、樹状細胞ワクチンを投与する時は超音波ガイド下で、鼠径部リンパ節皮質内へ直接注射します。
ネオアンチゲンペプチド樹状細胞ワクチンを数回行なった後に、免疫反応検査(エリスポット反応検査)で最も効果的にCTLを誘導できるネオアンチゲンペプチドを特定し、そのペプチドを用いた「樹状細胞ワクチン刺激活性化リンパ球」を点滴移入する場合もあります。
樹状細胞ワクチンを作成する際、特に有用な材料となる患者さんの新鮮な腫瘍組織は手術の時にしか手に入らないこと、また、免疫療法における最新技術であるネオ抗原ペプチド樹状細胞ワクチン療法に必要な遺伝子検査のために必須の検体でもあることから、是非手術の前にご相談ください。
ネオ抗原樹状細胞ワクチン療法の準備から施行までの手順と費用
- 手術で採取または生検で得られる新鮮腫瘍組織もしくは腫瘍のホルマリン固定材料の遺伝子解析を行い、ネオ抗原を同定する。
- 遺伝子解析で分かった情報をもとにネオ抗原ペプチド(短いたんぱく質断片)を合成する。
- 成分採血で免疫細胞を一括採取して保存する。
費用は、上記①~③の準備段階で掛る費用と、ワクチンの6回施行と治療後の免疫学的効果判定(エリスポット検査)を含めて総額およそ200~230万円となります。
尚、6回のワクチン療法で、材料のネオ抗原ペプチドや成分採血で採取保存した白血球を使い切ることはなく、残りの材料は当院で2年間は凍結保存できるため、採血無しで10回ほどの追加的ワクチン療法やワクチン後特異的リンパ球療法を継続することが可能です。(継続の場合の1回毎の治療費:¥165,000)
当院のペプチド樹状細胞ワクチンで用いる新規ペプチドのまとめ
- 1:Neoantigens Peptides
-
ネオアンチゲンペプチド
まず、患者さん一人一人の個別のがん細胞の産出する蛋白質の情報を、手術や生検で得られた新鮮腫瘍組織を材料として遺伝子解析にて割り出す。結果得られた情報をもとに合成される、完全に個別されたペプチド - 2:Oncoantigens peptides
-
オンコアンチゲンペプチド
世界的ながん遺伝子研究者である中村祐輔先生の研究室と先生が顧問をされているオンコセラピー・サイエンス社が開発したペプチド(HLA-A2402, HLA-A0201の患者さんに限定される) - 3:Long peptides
-
ロングペプチド;Miltenyi Biotech(ミルテニー バイオテク社)製
*既にがんワクチン療法で世界的に臨床試験が進んでいる以下の蛋白のうち、ペプチドワクチンとして働く可能性のあるロングペプチド(アミノ酸数15程度)を100種類以上合成し、混合したペプチドのプール。
NY-ESO-1, Mage3, MUC-1など