症例紹介

目次

治療例の英文医学論文発表の意義

がんの治療例を報告する場合には、個人情報保護に基づいた提示が必要です。また、真に信用に足る、責任ある医学的報告であるためには医学論文での発表が必須です。学会や研究会で発表されただけでは真の責任ある医学的報告とは言えません。

インターナショナルな信用と理解を得るには、英文医学論文での報告が原則となります。がんの治療例の紹介においては、インターネットや雑誌だけでの症例提示だけでは医学的意味はなく、その内容が信用できるかどうかも疑わしい例が散見されます。

当院では、未だ標準的がん治療としての位置づけのない免疫細胞療法(我が国では再生医療等安全確保法における第三種再生医療)の効果については、その医学的・免疫学的意義について深く研究・考察する義務がありますので、できるだけ英文医学論文として報告するように努めております。特に、世界的にも開始されたばかりのネオオアンチゲンワクチン療法については、できるだけすべて医学論文として報告するように努めています。

下記に著効例としてあげる症例の中には、既に当院から発表した最近の英文医学論文で報告した症例も含まれています。

最新の論文(一部紹介)

Lymph Nodes as Anti-Tumor Immunotherapeutic Tools: Intranodal-Tumor-Specific Antigen-Pulsed Dendritic Cell Vaccine Immunotherapy
Takashi Morisaki, Takafumi Morisaki, Makoto Kubo, Shinji Morisaki, Yusuke Nakamura and Hideya Onishi
Cancers 2022, 14(10), 2438; 
DOI:https://doi.org/10.3390/cancers14102438 – 15 May 2022 [ NEW ]

樹状細胞ワクチンのリンパ節内投与の科学的合理性

樹状細胞ワクチンは、通常、皮内投与される施設が多い。しかしながら、皮内投与の場合は、樹状細胞のほとんどが領域リンパ節に到達せず、ワクチンの投与ルートとしては最適とは言えない。
リンパ節には、リンパ節動静脈から全身のリンパ球が常に出入りしているため抗原を提示した樹状細胞と遭遇する機会が多く、リンパ節内の樹状細胞で抗原刺激を受けて増殖したリンパ球は輸出リンパ管から全身の循環系に移行することより、ネオアンチゲンプチド樹状細胞をリンパ節内に投与した方が最も効率がよいと考えられる。
本総説は、リンパ節の微小環境とワクチン投与ルートとしての科学的合理性について報告した論文である。

Contribution of pre-existing neoantigen-specific T cells to a durable complete response after tumor-pulsed dendritic cell vaccine plus nivolumab therapy in a patient with metastatic salivary duct carcinoma
Shu Ichimiya, Takashi Morisaki et al.
IMMUNOLOGICAL INVESTIGATIONS
DOI:https://doi.org/10.1080/08820139.2021.1973491 Published online: 05 Sep 2021

樹状細胞ワクチン+オプジーボにより完治し7年経過したステージIV耳下腺癌症例とネオアンチゲンの関与

耳下腺導管癌は極めて予後不良の癌である。本報告は、耳下腺導管癌の手術・重粒子線治療後に多発リンパ節、多発肺転移をきたした症例に対し、自己腫瘍パルス樹状細胞ワクチン後にニボルマブ(オプジーボ)を1回投与後に、腫瘍がすべて消失し(CR)、2022年現在まで7年間無再発例の免疫学解析を行い、ネオアンチゲン反応性Tリンパ球の関与を証明した最初の報告である。

Neoantigens elicit T cell responses in breast cancer
Takafumi Morisaki, Makoto Kubo, Masayo Umebayashi, Poh Yin Yew, Sachiko Yoshimura, Jae-Hyun Park, Kazuma Kiyotani, Masaya Kai, Mai Yamada, Yoshinao Oda, Yusuke Nakamura, Takashi Morisaki & Masafumi Nakamura
Published: 30 June 2021
ScientificReports volume 11, Article number: 13590 (2021)
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-021-91358-1

乳癌におけるネオアンチゲン解析と免疫療法への応用

乳癌におけるネオアンチゲンの臨床的意義は定まっていない。乳癌の初発、再発病巣のネオアンチゲン解析結果と種々の病理学因子との相関では、Triple Negative(TNBC)例でネオアンチゲン数が多かった。免疫関連因子の発現とネオアンチゲンの相関はみられなかった。標準治療耐性のTNBC症例のがん細胞のネオアンチゲン解析を行い、ネオアンチゲンぺプチドで自己リンパ球からの腫瘍特異的CTL の誘導に成功した。
本論文は、TNBC例に対するネオアンチゲン特異的CTL療法の免疫学的背景を証明した。

Efficacy of Intranodal Neoantigen Peptide-pulsed Dendritic Cell Vaccine Monotherapy in Patients With Advanced Solid Tumors: A Retrospective Analysis
TAKASHI MORISAKI, TAKAFUMI MORISAKI, MAKOTO KUBO, HIDEYA ONISHI, TATSUYA HIRANO, SHINJI MORISAKI, MASATOSHI ETO, KEISUKE MONJI, ARIO TAKEUCHI, SHINICHIRO NAKAGAWA, HIROTO TANAKA, NORIHIRO KOYA, MASAYO UMEBAYASHI, KENTA TSUJIMURA, POH YIN YEW, SACHIKO YOSHIMURA, KAZUMA KIYOTANI and YUSUKE NAKAMURA
Anticancer Research August 2021, 41 (8) 4101-4115;
DOI:https://doi.org/10.21873/anticanres.15213

Class-I ネオアンチゲンペプチドパルス樹状細胞ワクチンのリンパ節内投与療法単独での臨床効果および免疫学的効果に関する本邦初の英文論文報告

2019年から開始した我が国初となるネオアンチゲンペプチド樹状細胞のリンパ節内投与療法単独での効果について臨床的・免疫学的解析を行った17例についての英文論文報告である。症例の中には、本治療6回終了後に多発肺転移が完全消失し(CR)、現在3年半(2022年10月)経過した腎臓がん術後多発肺転移例が含まれている。

Intranodal Administration of Neoantigen Peptide-loaded Dendritic Cell Vaccine Elicits Epitope-specific T Cell Responses and Clinical Effects in a Patient with Chemorefractory Ovarian Cancer with Malignant Ascites
Takashi Morisaki,Tetsuro Hikichi,Hideya Onishi,Takafumi Morisaki,Makoto Kubo,Tatsuya Hirano,Sachiko Yoshimura,Kazuma Kiyotani &Yusuke Nakamura
DOI:https://doi.org/10.1080/08820139.2020.1778721

本邦初報告となるネオアンチゲンワクチン療法

ネオアンチゲンは、腫瘍細胞の遺伝子変異の集積の結果、がん細胞のみに発現しHLA- クラスI分子に親和性のあるペプチドであり、CTL(腫瘍抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球)ががん細胞を認識・攻撃するがん細胞特異的な目印であり、個別化がんワクチンとして期待されている。
本論文は、ネオアンチゲン樹状細胞ワクチンのみで臨床効果(癌性腹水の減少と腫瘍マーカーの低下)が得られた標準治療(再発後3種類の抗がん剤レジメン)耐性の卵巣癌がん性腹膜炎の症例報告である。我国ではネオアンチゲンワクチンの最初の英文論文報告となる。

治療例のご紹介

樹状細胞ワクチン(ネオアンチゲンワクチン含む)治療例

頭頸部がん
  • 60代男性。2011年耳下腺導管がんにて手術+重粒子線治療。
    翌年、肺とリンパ節に転移(HER2陽性)し当院受診。
    HER2標的抗体療法+NK細胞療法行う効果なく、ラパチニブ+活性化リンパ球療法に変更し著効するも2年後肺転移とリンパ節転移が再増大。リンパ節転移生検し自己腫瘍蛋白パルス樹状細胞ワクチンを2回施行後、オプジーボ少量1回投与にて腫瘍はほぼ完全消失し、現在に至るまで再燃なし(英文医学論文1)で報告。
    現在はネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法のみにて完全寛解維持中。
胸腺腫瘍
  • 2004年より悪性胸腺腫を発症、手術と放射線治療を繰り返してきた50代女性。
    2018年11月、急速に増大した胸膜再発腫瘍に対し、針生検にてネオアンチゲン予測遺伝子検査施行し、2019年1月よりネオアンチゲン樹状細胞ワクチン開始し、6か月後はほぼ消失(英文医学論文2)の中で報告。
子宮体がん
  • 70代女性。2017年4月、子宮体癌+多発肺転移と診断され、化学療法の後、2017年9月手術。
    術後免疫細胞療法+化学療法にて肺転移は縮小するも、2019年に肺転移の再増大。
    また、頭部皮下に新たな転移出現し、放射線治療の後、免疫細胞療法施行。
    放射線治療前の頭部皮下転移より針生検にて腫瘍のネオアンチゲン解析を行い、樹状細胞ワクチン療法開始。2020年6月よりキーツルーダ+レンバチニブを3回併用した後すべての腫瘍が消失し、現在1年2か月経過中(論文報告準備中)。
  • 60代後半女性。子宮体がん術後の多発リンパ節転移で、第二次までの化学療法施行するも耐性。そけいリンパ節の針生検によりネオアンチゲンを予測解析。
    2020年11月より、ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン+少量レンバチニブ療法開始し、すべてのリンパ節転移病変は現在まで縮小維持中。
肺がん
  • 50代前半男性。2017年、右肺腺がんの診断(多発肺内転移にてステージIV)。
    EGFR変異陽性のため、タグリッソ内服療法を開始し、不変を維持。
    2019年、腫瘍のネオアンチゲン解析にて予測されたネオアンチゲン ペプチド樹状細胞ワクチン療法の併用にて、初発から4年経過するも持続的縮小を維持中。
腎細胞がん
  • 70代男性。右腎細胞がん(下大静脈圧迫)と診断され、分子標的薬の投与後に手術施行。術後に両肺転移出現するも、肺血栓のため薬物治療を断念。
    新鮮腫瘍を凍結保存していたため、ネオアンチゲン予測遺伝子検査施行。2019年1月よりネアオンチゲン樹状細胞ワクチン療法を開始。3回のワクチン施行後に両肺転移の縮小を確認。治療開始後6カ月のCTでほとんどの肺転移が縮少していることを確認。現在2年半経過するもCRを維持中で、(英文医学論文2)の中で報告。
膵臓がん
  • 60代男性。2009年膵がんで手術。術後再発予防のため、化学療法(ジェムザール)半年間と活性化自己リンパ球療法を2015年まで施行。術後8年目で肝転移出現し、単発のため切除し、膵がん肝転移の病理診断。
    術後TS-1を半年間服用し、肝転移巣のネオアンチゲン解析結果を基にネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法施行。現在、肝転移出現し4年経過するも再再発なし(論文報告準備中)。
膵神経内分泌がん
  • 膵臓神経内分泌がん手術(2003年)後再発例の60代女性。術後、肝、肺、リンパ節、胸膜再発し、標準的化学療法行うも耐性。
    腫瘍のネオアンチゲン解析を行い、当初はネオアンチゲン樹状細胞ワクチン単独療法、後に免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)と分子標的薬剤(レンバチニブ)をネオアンチゲン樹状細胞ワクチンと併用し、腫瘍は完全消失し、現時点で再燃の兆候なし(論文報告準備中)。
小腸がん
  • 小腸がん術後腹膜播腫再発の70代男性。腹膜播種巣よりネオアンチゲンを解析し、ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン及び樹状細胞ワクチン刺激活性化自己リンパ球療法にて現在のところ再再発なく2年経過中。
乳がん
  • 乳がん術後、骨、リンパ節、皮膚転移再発の70代女性。皮膚転移巣からのネオアンチゲン解析後、ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン+化学療法(ゼローダ+エンドキサン内服療法)にてほとんどの病変が消失し、現在も継続中。
大腸がん
  • 50代男性。大腸がん術後、腹壁転移と肺転移を繰り返す。化学療法+活性化自己リンパ球にて肺転移は消失。腹壁転移の一部を切除し、ネアンチゲン解析し、ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法+ワクチン刺激活性化自己リンパ球療法にて腹壁転移は長期縮小を持続。
悪性リンパ腫
  • 50代男性。ステージIVの濾胞型リンパ腫。切除、放射線治療、化学療法、化学放射線治療行うも効果なく、リンパ腫の一部から新鮮腫瘍を採取し、ネオアンチゲン解析を行い、2019年1月よりネオアンチゲン樹状細胞ワクチン開始。
    2019年6月ほぼすべてのリンパ腫が消失。現在も一部のリンパ腫の残存を除き、ほとんどのリンパ腫は縮小を維持中(論文2の中で報告)。
  • 60代男性。2007年より順に、結腸、小腸のMALTリンパ腫を発症し、手術、化学療法を施行。胃に新たに発生したMALTリンパ腫に対しネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法施行し、胃の病変はほぼ消失し安定(論文2の中で報告)。

樹状細胞ワクチンによる再発予防例

肺がん
  • 60代男性。心嚢に浸潤する低分化扁平上皮がんにて手術。副作用にて術後、化学療法は行わず。再発高リスクのため、凍結保存していた新鮮自己腫瘍蛋白パルス樹状細胞ワクチン療法、および、ワクチン刺激リンパ球療法を施行し、現在、術後7年経過するも再発なし。
悪性黒色腫
  • 2013年、皮膚に多発し、両側副腎にも転移した悪性黒色腫(メラノーマ)ステージIVの30代男性。化学療法(抗がん剤)にて体調悪化し、遺伝子検査の結果、B-RAF遺伝子変異と判明し、当時はまだ保険適応外であった分子標的薬を開始すると同時に自己腫瘍蛋白刺激樹状細胞ワクチンを開始し、ほぼ腫瘍は消失。その後、2014年秋より保険適応となったオプジーボ投与によりすべての病変が消失し、6年超経過した現在も再発なく健在。

Ⅱ 樹状細胞刺激活性化リンパ球療法治療例

肺がん
  • 60代男性。2015年、右肺扁平上皮がんに手術するも、断端陽性(がんの遺残あり)のため術後化学療法を行なうも、腎機能障害にて中止となる。新鮮腫瘍を凍結保存していたため、自己腫瘍蛋白パルス樹状細胞ワクチン、及びワクチン刺激活性化リンパ球療法を施行し、現在、7年経過するも再発なし。
  • 40代男性。2014年右上葉肺腺がんと診断される(脳転移あり、ステージIV)。原発巣と脳転移は放射線治療を行ない、その後はがん拠点病院での化学療法と当院での免疫細胞療法(ペプチド樹状細胞ワクチン刺激活性化リンパ球療法)を行い、2018年CRとなり、現在、3年半経過中。
胃がん
  • 60代男性。2009年9月、大動脈周囲から頸部までリンパ節転移が広がるステージ4の胃癌と診断され、化学療法+活性化自己リンパ球療法施行し、ほとんどのリンパ節転移が縮小したため、2012年に手術施行。
    術後は自己腫瘍蛋白パルス樹状細胞ワクチン刺激活性化リンパ球療法施行し、2018年まで再発なく、(英文医学論文5)に報告。2021年8月現在も再発なく健在。
胆嚢がん
  • 50代男性。2008年11月胆嚢がんで手術し、術後化学療法行うも、翌2009年肝転移再発。活性化リンパ球療法の併用開始。一時、肝転移消失するも再燃。
    MCN療法にて肝転移の治療開始。2016年より、MUC-1ペプチド樹状ワクチン刺激リンパ球療法の併用開始。肝転移ありながら、2018年まで10年間、長期生存例として(英文論文4)で報告。

Ⅲ 活性化自己リンパ球の著効例

当院の活性化自己リンパ球療法に関する詳細は(英文医学文献6)の中で報告しています。

頭頸部がん
  • 30代女性。2011年、舌がんにて手術するも、2013年に多発肺転移、リンパ節転移をきたし、化学療法開始するも縮小しないため、化学療法(セツキシマブ併用)に活性化自己リンパ球を併用したところ、肺・リンパ節転移が消失し、現時点で7年超経過するも再再発なし。
大腸がん
  • 60代女性。大腸がん術後、肝転移+腹膜播種。化学療法にてアレルギー出現したため、以後、化学療法は中止。以後は活性化自己リンパ球のみで治療。定期的な画像検査で、腹膜播種は残存するも、以後は進行なく安定し、現在10年経過し、無治療にて健在、経過観察中の稀有な症例。
胆道がん
  • 60代男性。肝内胆管がんにて手術後、肝転移再発。化学療法(ジェムザール+シスプラチン療法)の後、免疫療法を1年間施行。肝転移は消失し、CRとなり4年経過し、その後再発なし。
悪性リンパ腫
  • 2014年、ステージIVのびまん性大細胞型B細胞型悪性リンパ腫と診断された90代男性。高齢のため化学療法の適応なく、当院での免疫細胞療法のみで治療をスタート。
    経過中、6Gyの緩和放射線治療を行い、その後は緩和医療(左胸水排液)と免疫細胞療法のみで、6年経過した現在も健在中(脾臓リンパ腫は残存するも不変で、心嚢液は自然に消失)。
子宮頸がん
  • がんが左腸骨に浸潤したステージIVbの50代の子宮頸がん。2012年、放射線治療のみを行い、その後は当院での免疫細胞療法のみで経過観察。2015年に腹膜播種増悪し、がん性腹水出現。1年間、腹腔内活性化自己リンパ球移入療法を行い、腹水がんは消失。2016年からは1回・6カ月の活性化自己リンパ球療法のみで経過観察中。2021年8月時点で、がんの再燃の兆候なく健在。
子宮体がん
  • 70代女性。2014年子宮体がんで手術。2015年、多発肺転移をきたし、第二次までの化学療法行うも耐性となり、さらに薬剤性間質性肺炎を併発。2015年よりテーラーメードペプチドワクチン療法を他施設で受けるも無効。
    2018年より当院での活性化自己リンパ球療法開始し、多発肺転移は不変を維持。2020年5月よりレンバチニブの少量間欠療法の併用開始。2021年8月現在、多発肺転移と間質性肺炎の進行なく全身状態も安定。
目次