がん治療update

20リンパ球活性化薬剤の臨床効果と効果メカニズム
Takashi Morisaki:2013.7

最近、体内に活性化リンパ球を誘導する新しい治療法が開発され、がん治療分野でのトピックスとなっています。その臨床試験の結果は昨年以来、癌治療分野で最もインパクトのある学会である米国癌治療学会(ASCO)や世界的な医学雑誌であるニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンで発表されています。それは、体内のリンパ球の力を高めるPD-1抗体やPD-L1抗体という抗体医薬の臨床試験の結果です(抗体はBリンパ球が作る蛋白質で、抗原蛋白に特異的に結合し、その抗原の働きを失わせることが機能の一つです)。
これまで悪性黒色腫(メラノーマ)や腎細胞がんなど、一部のがん種でしか臨床効果が証明されていなかった免疫療法の分野で、肺がんなど他のがん種においてもその有効性を証明するデータが次々と報告されているのです。

リンパ球表面にあるPD-1という分子は、通常、リンパ球が過度に活性化されるのを阻止する役割を担っていますが、がん患者さんではそのPD-1が働きすぎてリンパ球の働きを弱めていることが以前より知られていました。
そのメカニズムとしては、がん患者さんの体内にある骨髄由来免疫抑制マクロファージという細胞やがん細胞の表面にあるPD-L1やPD-L2という分子が、リンパ球表面のPD-1を刺激することにより、リンパ球の力を弱めることが考えられています。PD-1に対する抗体をがん患者さんに投与することで、リンパ球の力を弱めるPD-1からの信号を阻止することになり、結果的にリンパ球を活性化することになると考えられます。活性化されたリンパ球の中にはがん細胞を攻撃できるリンパ球が少なからず存在することが考えられます。つまり、PD-1抗体療法により、がんに対するリンパ球の攻撃力が増加し、その結果がんが縮小することになるのです。
標準治療に効かなくなった肺がん患者さんにおいても、1年以上がんの縮小効果が継続する例が報告されてきています(特に扁平上皮癌に効果が高いようです)。PD-1抗体に類似した抗CTLA4抗体は既にメラノーマの治療薬として米国では認可を受けて臨床応用されています。

残念ながら、これらの抗体医薬が我が国で保険適応として使用できるまでにはもうしばらくかかると思われます。しかしながら、臨床試験が始まる前はそれほど期待されていなかっただけに、PD-1抗体やCTLA4抗体でリンパ球の力を底上げする(活性化)だけでも顕著な臨床効果が得られたことは、免疫療法医の間だけでなくがん薬物療法の専門家の間でも一つの衝撃となって伝わりました。PD-1抗体医薬のようなリンパ球活性化薬剤と他の治療との併用療法の治験も始まっているようです。

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