がん治療update

17生体内でTリンパ球の活性化を誘導する抗体医薬の臨床応用始まる
Takashi Morisaki:2011.8

(※記事内の情報は執筆当時の内容のため現在とは異なる場合がございます。)

今回の話は、多少免疫の専門的知識がないと難しいかもしれませんが、今後の癌免疫療法にも影響ある重要な薬剤の話(私見)ということでお許し下さい。

 2011年3月、米国FDA(Food and Drug Administration)は悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬剤として、免疫療法薬剤Ipilimumab(イピリムマブ)を正式に認可しました。
イピリムマブは、Tリンパ球の細胞膜上にあるCTLA-4という分子に対する抗体医薬です。CTLA-4は活性化Tリンパ球や制御性T細胞上に多く発現する分子で、リンパ球の活性化を抑える働きがあります。イピリムマブはそのCTLA-4の働き(つまりリンパ球の働きを弱める)を抑えるため、結果としてTリンパ球の活性化を最大限に引き出すことになるのです。
メラノーマの患者の体内にあるTリンパ球の中にはメラノーマ細胞上にある癌関連抗原を認識して傷害できる潜在能力を持ったリンパ球が存在することが知られており、イピリムマブを投与された患者では、結果としてメラノーマ細胞を攻撃するTリンパ球が活性化増殖して腫瘍に集積する可能性が示唆されています。

 それでは、CTLA-4を有する制御性Tリンパ球に対してはイピリムマブはどのように作用するのでしょうか?
実は、制御性T細胞は、癌免疫療法においては、その効果を弱めるリンパ球であることが知られています。通常のTリンパ球に対してと同様、イピリムマブが制御性T細胞に対しても活性化させるなら、制御性T細胞が、癌細胞を攻撃するTリンパ球の働きを邪魔することにならないのか?そういう疑問も生まれます。
これに対しては、最近報告されたいくつかの論文を読めば、「制御性T細胞のCTLA-4は抗原提示細胞のB’7を減らすことにより免疫抑制機能に関わるため、CTLA-4の抑制抗体は制御性T細胞の免疫抑制機能を抑制する」、つまり制御性T細胞側からみても、癌に働く免疫力としてはやはり高めることが予想されます。

 イピリムマブが認可された背景にある臨床試験第3相の論文(Hodi FS et al, New England Journal of Medicine, 2010)をみて気づくことは、イピリムマブ単独投与群とイピリムマブにgp100ペプチドワクチンを加えた群で治療効果に差がなかったという点です。
通常はワクチンを加えることにより、より癌特異的Tリンパ球の力が強化されて相乗効果がでるのではと予想されるのですが、実際は併用効果はみられなかったのです。
その理由は不明ですが、考えられる理由の一つとしてはイピリムマブで強化されるTリンパ球は腫瘍抗原に特異的に働くTリンパ球だけではなく、それ以外のすなわち非特異的なTリンパ球も活性化され、これもまた癌に働いたのではないかいう考え方です。

いずれにせよ、Tリンパ球を最大限に活性化させる薬剤が臨床で使用できることになった点は非常に心強いと言えます。注意すべき点は高率に発生する副作用であり、特にリンパ球が過剰に活性化されたことによる腸炎が発生した場合、重症例ではステロイド薬剤も使用されます。
また、医療経済的には一回の治療薬剤費が百万円単位であると聞けば、まだまだこの薬剤が一般的治療薬とはなり得ないと言えます。
しかしながら、こういう免疫薬剤が臨床応用可能になれば、従来の免疫療法である活性化リンパ球療法や樹状細胞ワクチン療法などの効果を高める補助薬剤となることは大いに期待されると言えるでしょう。

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