がん治療update

がん治療の最前線にある正しい情報を伝える


当院では現場の医療に携わりながら、独自の研究施設での研究に力を注ぎ、九州大学との共同研究や学会での論文発表を積極的に行っています。(※詳しくは「当院の業績紹介」のページへ)

このページでは、免疫細胞療法に関する学会での動向や、最新の英文論文を、皆さんにお伝えいたします。常に進化していく医療を感じ取っていただけたら幸いです。
(※記事内の情報は執筆当時の内容のため現在とは異なる場合がございます。どうぞご了承ください。)

21PD-1抗体薬のその後
Takashi Morisaki:2014.9

前回のコラム「悪性黒色腫の治療革命」の中でPD-1抗体のことを紹介しました。また、2014年3月出版の拙著「がん治療革命;未来への提言」の中でも詳しく解説しています。
その前回のコラム執筆から約1年後、早くもPD-1抗体薬(二ボルマブ)が日本では2014年7月に保険適応承認となり、9月4日には米国FDAが別のPD-1抗体のPembrolizumabを認可しました。その高額な薬価が注目されるところですが、我が国の場合、今のところその使用が悪性黒色腫に限定されてはいるものの、公的保険適応となったため、その恩恵を受ける方は幸運と言えます。

PD-1抗体薬は、悪性黒色腫以外にも、腎細胞がん、非小細胞肺がん、大腸がん、卵巣がんや前立腺がんなどで、次々と臨床効果が明らかになりつつあります。
その腫瘍縮小効果は今のところ、多くのがんで50%以下ですが、縮小効果がみられた人ではその効果が非常に長く継続することが特徴で、耐性ができて効かなくなる「抗がん剤」とは異なるのが特徴です。

PD-1抗体薬は、直接がん細胞を攻撃するのではなく、がん細胞を認識しながらもその力を弱められているTリンパ球に働きかけ、リンパ球のがん細胞に対する攻撃性を誘導するというメカニズムで抗腫瘍効果を発揮します。
がんを認識できるリンパ球が体内に存在することは以前より知られてはいましたが、数も少ない上にがん細胞を攻撃できるほど強力ではないために、「役立たず」のリンパ球だったのが、PD-1抗体薬の投与で、それまで抑えられていた潜在能力が解き放たれ、がんを攻撃破壊できる強力なリンパ球に変身するという仕組みです。
複数の製薬会社が手掛けた臨床試験でPD-1抗体単独によるがん縮小効果が多くのがんで証明されことにより、これまで「がん免疫療法は無意味だ」と考えていた一部のがん治療医も、もはや、リンパ球による抗腫瘍効果を否定することはできないはずです。

ただ、PD-1抗体医薬にはまだいくつかの問題点もあります。PD-1抗体医薬が効く人とそうでない人があることや、効くまでに時間を要すること、皮膚・肝・腸などに起こる自己免疫様の炎症反応による副作用です。

PD-1抗体薬が全く効かない例の中には、そもそも「がん細胞を認識はできるが役立たずのTリンパ球」の数が少ないのではないかと考えられます。従ってPD-1抗体薬のみで効果のない患者さんでは、その対策として、あらかじめ樹状細胞ワクチンなどの他の免疫細胞療法を併用することが考えられます。自己腫瘍抗原添加樹状細胞ワクチンの投与で、PD-1抗体薬を投与する前にがんを認識できるリンパ球を増やしておくのです。

PD-1抗体薬は、体の中にがん細胞を攻撃するリンパ球をじわじわと誘導することで効果を発揮するため、がんが縮小するには時間がかかります。場合によってはがんに浸潤するリンパ球が増えることによりCTでは一旦、がんが大きくなったように映ることも知られています。
また、がんの量が多く、増えるスピードが速い場合には、できるだけ前もって他の治療によりがんをできるだけ縮小させておくことも重要です。例えば、悪性黒色腫の患者さんの約半数にB-RAFドライバー遺伝子の変異が見られますが、この場合はB-RAF阻害剤のベムラフェにブやダブラフェニブとトラメチニブの併用などによりできるだけがんを縮小させておくことが対策として考えられます。

PD-1抗体薬をはじめとする免疫のメカニズムに関与した抗体薬は、今後臨床現場に次々登場し、これからのがん治療は大きく変わることになるでしょう。これまでの「抗がん剤によるがん治療」から、「分子標的薬剤」と「免疫抗体薬」、そして、2014年11月より厚生労働省の定める再生医療第3種として出発する樹状細胞ワクチンや活性化リンパ球などの「免疫細胞医療」をうまく調和させながら行う総合治療の時代へと変わっていくでしょう。
従ってこれからの癌治療専門医には、手術、放射線、薬剤治療という標準治療を熟知することはもちろんのこと、「腫瘍免疫学」の研究経験と深い知識が要求されることになります。

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