福岡がん総合クリニックでは、自己腫瘍の凍結保存がない場合の代替的がんワクチン療法として、ペプチド樹状細胞ワクチンをおこなっています。
これまで使用してきたペプチドは、CEA, MUC-1, HER2,などのHLA-A2やHLA-A24の白血球型抗原の方に限定した汎用がん抗原ペプチドと、ミルテニーバイオテク社の開発した、NY-ESO-1, MUC-1, WT-1, Mage3といった多くのがんに発現する汎用抗原ペプチドを100種類以上合わせたロングペプチドを、樹状細胞に加えるワクチンの材料として使用してきました。
この度、従来のがん抗原ペプチドに加えて、中村祐輔先生(がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長・内閣府戦略的イノベーション創造プログラムプログラムディレクター)が顧問を務められているオンコセラピー・サイエンス社から、オンコアンチゲンのペプチド特許の使用許可を得、オンコアンチゲンペプチドを使うことが可能となりました。
オンコアンチゲンペプチドはがんの詳細な遺伝子研究に基づいて発見されたもので、がん細胞の増殖に関する蛋白質に由来するペプチドです。白血球の型の検査が必要で、白血球の型とがんの種類によって使えるペプチドが異なります。
更に、最近進歩著しいがん細胞の遺伝子解析をもとに見つけ出すネオアンチゲン(新生抗原)は患者さん一人一人の個別のがん細胞の産出する蛋白質の断片であり、遺伝子の解析結果をもとに、完全に個別化して合成されたペプチドは樹状細胞ワクチンを作成する材料としては究極の材料といえます。
昨年がん治療の新旗手として華々しく登場した免疫チェックポイント阻害剤の研究で、ネオアンチゲンの発現が多いほどこの薬剤の効果が高いことが分かりました。
免疫チェックポイント阻害剤はCTL(がん細胞を傷害する強力なTリンパ球)に作用してその攻撃力を下支えする働きをするものですが、CTLはネオアンチゲンの種類の多さと相関性があるわけで、CTLが体内にたくさん誘導されていれば免疫チェックポイント阻害剤の効果が相関的に高くなるのは合点のいく事実でした。
従ってネオアンチゲンペプチドを刺激材料に用いた樹状細胞ワクチンは、患者さん個別のがん細胞だけがもつ唯一無二の特異的なCTLを体内に誘導できるので、完全に個別化された精密ワクチン療法といえます。
当院では、2017年秋、このネオアンチゲンペプチドを用いた究極の樹状細胞ワクチン療法実施への取り組みをスタートさせました。