院長コラム

22二人の巨星、膵腫瘍で落つ
2011.10.15

最近、二人の著名な方が膵臓腫瘍で亡くなりました。
一人は、現在、癌免疫療法の一つとして行われている樹状細胞ワクチン療法のきっかけを作ったラルフ・スタインマン博士、もう一人はアップル社のCEOであったスチーブ・ジョブズ氏です。

スタインマン博士は、樹状細胞の発見者として本年度のノーベル生理医学賞の受賞が決定された後に、4年半の闘病の末、通常型膵管癌で亡くなられました。切除不能膵臓癌で4年半という生存期間はかなりよかったといえます。
スタインマン博士は自らの発見がもとになった樹状細胞ワクチン(自分自身の癌組織から抽出したRNAや蛋白を樹状細胞に取り込ませた自己腫瘍パルス樹状細胞ワクチン)を治療の一環として使用されたそうですが、他に6種類の治療も行われていたようです。ジョブズ氏の方は、膵臓の神経内分泌腫瘍(Pancreas Neuroendocrine Tumor; 以下PNETと略)という珍しい膵腫瘍で、2003年の診断確定の後、2004年に手術、8年目で亡くなられたということです。2009年には肝転移に対して肝移植術まで受けられていますが、本年10月4日に癌の転移により亡くなられたそうです。

そこで、今回は、通常型膵管癌とPNETについて最新の治療の話題をお話しします。

膵臓にできる悪性腫瘍としては、わが国では毎年24,000人が、米国では40,000人が新たに膵臓癌と診断されています。通常型膵管癌は膵悪性腫瘍の90~95%を占め、普通、膵臓癌と言えばこれを指します。

膵臓癌の多くは肝転移などの遠隔転移などの存在で、既に手術適応がない状態で発見されます。その場合、世界的にも共通なジェムシタビンという抗がん剤を第一選択薬として使用されますが、第二選択薬としてはわが国ではTS-1という内服薬の抗がん剤の効果が最近認められています。 海外ではTS-1の代わりにゼローダという内服薬が用いられています。我国では、ジェムシタビンとTS-1の併用が単剤よりも癌の進行を抑える期間が長かったというデータも出ています。
また、米国では2005年から、膵癌の治療としてジェムシタビンとタルセバという分子標的薬の組み合わせが使用されていますが、タルセバが膵癌治療薬としてわが国でも本年7月にようやく保険適応となりました。 但し、間質性肺炎という重篤な副作用の頻度が比較的高いために、現在はまだ市販後調査の段階で、タルセバが自由に使用できる状況ではありません。
一方、米国では本年の癌治療学会でFOLFIRINOXという4種の抗がん剤の組み合わせがジェムザールの効果を上回ることが報告されましたので、今後の治療選択肢が増える可能性がでてきました。

PNETでは、インスリノーマというインスリンを分泌する腫瘍やガストリンを分泌するガストリノーマが多いのですが、悪性度(増殖が速かったり、転移しやすかったりなどの性質)としては通常型膵管癌に比べてたちがよい腫瘍と言えます。ジョブズ氏が8年間生存できたのもこのことが関係していると思われます。

PNETの治療薬剤については、これまではストレプトゾトシンやサンドスタチンLARという薬剤が主体でしたが、最近、mTOR阻害剤のエベロリムスとマルチキナーゼ阻害剤のスーテント(スニチニブ)という分子標的薬剤がよく効くことが分かってきており、今後の標準治療となる可能性もあります。
もちろん、ジョブズ氏もこれらの薬剤は使用されたものと思います。また、ジョブズ氏は2009年に肝転移に対し肝移植術を受けておられます。わが国では、肝移植術は肝転移(転移性肝がん)に対しては適応がないと言われていますが、米国ではPNETの肝転移については、比較的5年生存率もよいことから (報告者により30~80%の開きあり)時々行われているようです。
しかしながら、肝移植後は免疫抑制剤を使用することにもなり、癌に対する免疫反応は障害される可能性はあります。結局、ジョブズ氏は転移した腫瘍がもとで呼吸不全(停止)で亡くなられたそうです。
二人の巨星の命を奪った膵臓の悪性腫瘍に対してのさらなる治療法の進歩が望まれます。

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