院長コラム

(※記事内の情報は執筆当時の内容のため現在とは異なる場合がございます。)

20がんと闘うということ
2009.8

がんと闘うとか、「患者よ、がんと闘うな」など、がん治療において、肯定的あるいは否定的に、「闘う」という言葉がよく使われます。私も時に使う言葉です。
「闘う」のは疲れるから闘わない方がよいという考え方もあるでしょう。確かにがんを有する自分の体を敵のように考えて痛めつけるような治療については、長期にわたっては、耐えられないでしょうし、がん治療の専門医である私もそのような治療はあまり選択したくありません。そうした強行姿勢でがんと闘うだけではなく、時にはうまくがんと「つき合う」という姿勢が必要なこともあります。病気と闘おうとする強い気持ちを持ちながら、時には「闘い」、時には「つき合う」という柔軟な考え方も必要なのです。

がん治療法において、「闘う」という言葉が文字通りにぴったりくる治療法としては免疫細胞療法があります。免疫細胞療法とは、自己の免疫細胞を活性化させて、これもまた自己の細胞である癌細胞を見つけ出し、攻撃破壊させる方法です。
癌細胞も免疫細胞からの攻撃を逃れるために種々の回避メカニズムを使います。すなわち、免疫細胞療法とは文字通り、癌細胞と免疫細胞というどちらも皮肉なことに自分の細胞同士が闘い合う治療法なのです。癌という病気になったこと自体、免疫細胞からの攻撃に勝った癌細胞が増殖し続けた結果と言えますが、そこでもう一度免疫細胞を鍛え直し、強力にして癌細胞と闘う力をつけてやるのが免疫細胞療法です。
すなわち、(a)体内に存在する癌細胞を見つけ出し攻撃する免疫細胞が誘導されるシステムを患者さんの体内に構築したり(樹状細胞ワクチン療法)、(a)のような強力な免疫細胞を患者さんの体外で大量に作り上げて体内に戻す(がん特異的活性化リンパ球療法)などがその代表格といえるものです。
私はこれらの治療法が今後さらに進歩し、癌治療の標準的手段として全国各地のがん拠点病院で可能になる日が来ることを希望しています。そのためには医学教育の初期の段階から腫瘍免疫学を学ばせることで、その道の医学研究者と治療医を増やし、本治療をさらに進歩させるように裾野を広げることが必要となるでしょう。

さて、「がんと闘う」姿勢が最も要求されるのは、実は患者さんではなく、がん治療専門医、つまり医療を提供する側です。患者さんのがんの苦しみを分がち合い共に闘おうという姿勢を持ち、患者さんと御家族をがんによる心身両面の苦しみから救うために全力で、あきらめずに治療を行うことが、私は癌治療の専門医としての重要な使命だと思っています。そのために、手術、化学療法、放射線治療、緩和医療というがんの標準治療を大事にしながら、それらにプラスして、当院では独自の研究設備を設けて、分子生物学と腫瘍免疫学の研究を進めながら、日々新たな分子標的薬剤治療や免疫細胞療法を施す努力を続けています。

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